医法研 治験補償ガイドラインの改訂について



平成21年12月1日

医薬品企業法務研究会
会長 飯田 信次


今般、医薬品企業法務研究会(医法研)は、平成11(1999)年3月公表の『医法研 被験者の補償に関するガイドライン』(「旧GL」といいます。)を改訂し、名称も新たに『医法研 被験者の健康被害補償に関するガイドライン』(「改訂GL」といいます。)として公表いたしました。

旧GLは、言うまでもなく、平成9(1997)年3月公布のGCP省令第14条により、治験依頼者に対して"健康被害に対する保険その他の補償措置構築義務"が課されたことを契機として作成、公表されたものです。この旧GLは保険の商品化や各製薬会社における治験補償体制の整備に大いに寄与し、今日では治験補償のディファクト・スタンダード(de facto standard :公的標準ではないが、市場実勢により形成された事実上の標準)と呼ばれるまでになりました。
 このように治験補償の実務に多大な功績を上げた旧GLですが、第一の主眼を早急な治験保険の商品化と製薬会社における治験補償制度の整備においていたこともあり、最大公約数的な内容とならざるを得ない面もありました。したがって、製薬会社ごとに解釈や運用が異なり、類似した健康被害に対する補償内容が会社間で差異があるのではないかといった疑念などもありました。また、補償基準を労災保険や医薬品副作用被害救済制度といった公的な補償制度に一律に委ねたことから、これら制度に盲従した補償方法が行われ、ときに硬直的な運用であり被験者の権利を奪っているという批判も寄せられました。
 今般、こうした批判にできるだけ応え得るべく、また、旧GLで積み残された抗がん剤などの治療比の低い薬剤での治験補償の考え方を示すべく、さらには公表から10年あまりの間に起きた治験環境や医療技術の進展等にも対応するべく、旧GLの見直しを図りました。一例ですが、旧GLが「本ガイドラインに従って補償する」としていたのを、改訂GLでは「本ガイドラインを参考にして自社の補償制度を文書にて定め、その制度にしたがって対応する」ことに改めました。そして、各社は治験に参加することにより想定されるリスクや期待便益、原疾患(対象疾患)の重症度や病態等がプロトコル毎、治験薬毎に異なっているという実情を考慮し、当該実情に見合った補償内容を設定できるようにしました。
 さらに、改訂GLでは、『参考資料』を加えました。これは、これまで補償担当者にとって対応することが難しかった@健康被害に要した治療費が高額療養費の対象となった場合の処置、A健康被害と原疾患の治療費との切り分けの問題、B健康人対象治験で政府労災給付を参考に補償金を支払う場合の金額算定方法、C予防接種健康被害救済制度を参考に補償金を支払う場合の金額算定方法、D医薬品副作用被害救済制度を参考にして補償金を支払う場合の金額算定方法、について解説を加え、実務の参考となるよう配慮しました。

以上、長々と改訂GLの改訂のポイントを述べてきましたが、実際には、概念・理念の「再確認」、補償手続きや補償基準等の「明確化」と言い換えた方が適切なものもあり、何もかもが「見直し」されたわけではありません。中には、これまで運用されてきた補償手続きの実務を明文化しただけのような修正もあることをご容赦下さい。

改訂GLですが、法令のごとく法的強制力を有するものではありませので、施行日は特に規定されてはいません。しかし、多数の会社が新年度を迎える2010年4月1日からの運用開始を目指して頂きたいと考えます。各社におかれましては、それまでの間に改訂GLの趣旨・内容を理解のうえ、各社既存の治験補償制度に修正すべき点があれば改善いただきますようお願い申し上げます。

最後に私見ではありますが、治験を含む臨床試験における被験者保護に関する世界の趨勢は「無過失責任」に向いつつあるように思われます。すなわち、法的責任(=賠償責任)の有無に拘わらず、被験者に健康被害が生じたときは、その損害は被験者の負担なしに補填されるという考え方です。日本でも近い将来そうした制度が公的に定められ、運用されることが期待されます。それまでの間、無過失責任とはいきませんが、旧来の「賠償責任主義」の殻を破り、被験者保護の視点から補償責任が果たされる環境に繋がるよう、改訂GLが多少なりとも寄与できることを期待しております

以上
『医法研 被験者の健康被害補償に関するガイドライン』

1.はじめに

2.医法研 被験者の健康被害補償に関するガイドライン

3.補償金算出方法&金額一覧表

4.医法研会員会社:アンケート結果

5.参考文献

6.旧ガイドライン(平成11年3月公表)『医法研 被験者の補償に関するガイドライン』